ヌミノース(ム)
【 英語表記/読み方 】
Numinous/ヌミノース(ム)
【 定義(Definition) 】
【 定義 】
(Definition)
自我では統御できない異質な力が、畏怖と魅了を伴って主体に侵入し、自己の輪郭を揺さぶる体験的契機。
【 説明(Description) 】
【 説明 】
(Description)
宗教学者ルドルフ・オットーが『聖なるもの』で提唱した概念で、言語化や理性を超えた、圧倒的な他力性を持つ経験を指す。
その体験は、人間の意志とは無関係に訪れ、主体の感情・価値観・存在感覚に深い影響を与える。
ユングはこの概念を心理学領域に応用し、ヌミノースムを心的エネルギーの源泉として捉え、無意識が持つ神秘的作用の証左とした。
【 構造的特徴(Structural Characteristics) 】
【 構造的特徴 】
(Structural Characteristics)
不可視性:対象は明確な形を持たず、概念化以前の感覚として立ち現れる。
両価性:畏怖(恐れ)と憧憬(魅惑)を同時に喚起する性質を持つ。
主体変容性:その体験は、主体の価値観や世界観に不可逆的変化をもたらす。
非所有性:理解や制御の対象にならず、主体はそれに“応答する”ほかない。
【 比喩(Metaphor) 】
【 比喩 】
(Metaphor)
暗闇に立ち現れる光/説明できないのに確かに存在する重力/人知を超えた波動に触れた瞬間の感覚
【 用例・文脈(Usage / Context) 】
【 用例・文脈 】
(Usage / Context)
- 〔社会〕
宗教儀礼・聖地巡礼・祭祀など、人々が特定の空間や行為を通じて“説明不能な神聖さ”を共有する場で顕在化する。
ヌミノースムは、合理性や科学的説明を超えた価値を社会に付与し、信仰体系や文化的規範の正当性の源泉となる。
共同体はそれを象徴として保持し、その力は国家意識や伝統行動にまで浸透することで、社会構造の深層を支え続けてきた。
そのため、社会制度や価値観の根拠を問い直す局面では、しばしばヌミノースム的経験が再浮上し、変革への引力として働く。 - 〔組織〕
企業文化や創業者理念が“理屈ではなく信じられている状態”に達すると、そこにはヌミノースム的な質が生じる。
根拠が示されずとも「この方向だ」と確信される感覚は、合理的判断を超えて組織を動かす推進力となり、多くの判断や行動を駆動する。
このような象徴的力は、組織が危機に直面した際、論理では折り合いがつかない決断を可能にすることもある。
つまり、ヌミノースムは組織における“目に見えない基準”として、文化形成と存続に作用する。 - 〔家庭・個人〕
人生の転機、事故、出会い、喪失など、説明不能な出来事に触れた瞬間、人は理解ではなく感得によって方向を選ばざるを得ない場面に立つことがある。
その体験は恐れや混乱と同時に「何かに導かれている」という不可思議な感覚を伴い、それまでの価値観を揺さぶり、自己理解の構造そのものを更新する契機となる。
ヌミノースムは、個人の意志や計画を飛び越えて訪れる“呼ばれてしまう経験”として作用し、意図を超えた行動の始点となることがある。
この質感こそが、単なる心理現象や偶然とは異なる次元を与え、個人史に深い刻印を残す。
【 関連語(Related Terms) 】
【 関連語 】
(Related Terms)
聖なるもの(Das Heilige)/無意識/象徴/畏怖
【 引用または出典(References) 】
【 引用または出典 】
(References)
ルドルフ・オットー『聖なるもの』
C.G.ユング『自我と無意識の関係』
【 備考(Note) 】
【 備考 】
(Note)
2025/11/30 初稿



