経営哲学・知の実験室|”銀座スコーレ”上野テントウシャ

純度の高い欲求

【 英語表記/読み方 】

Pure Desire(Intrinsic Calling)/じゅんどのたかいよっきゅう

Pure Desire(Intrinsic Calling)
じゅんどのたかいよっきゅう

【 定義(Definition) 】

【 定義 】

(Definition)

世界の呼びかけに応答しながら、自分を自分たらしめる“掟”として働く生成的エネルギー。

外的報酬や承認を離れ、存在の源から呼びかけに応答してしまう必然の衝動。

【 説明(Description) 】

【 説明 】

(Description)

“純度の高い欲求”とは、「何かをしたい」という意志ではなく、「自分を自分たらしめる掟」によって動かされる存在的必然の衝動である。

それは欠乏を埋める欲望ではなく、世界の律動と共鳴しながら存在を方向づける内的ドライブであり、目標や成果といった外的基準には還元されない。

心理学で言う“内発的動機”とは異なり、自己の自律を起点とするものではない。
むしろ、世界との関係のなかで立ち上がる呼びかけに対し、応答せずにはいられない状態として生じる。
この点において、“純度の高い欲求”は、責任を義務や役割としてではなく、応答する力(responsibility)として捉え直す視座と親和的である。

貢献や善意の形式をとる場合もあるが、その中心にあるのは承認ではない。
善悪や評価の手前で、呼びかけへの応答そのものが出来事として生起している。

この探求の過程そのものが、“純度の高い欲求”の発露であり、到達や把握の対象ではない。
近づこうとするほどに、自己の輪郭は世界との関係のなかで反転し、「自分とは応答によって形づくられる存在である」という事実が、後から明らかになる。

理念や構造に還元されず、掟(Source)に忠実であることで、自己と世界の往復運動は保たれる。
その往復の持続が、個人においては生命の律として、経営においては理念の翻訳精度として機能し、存在を自己組織化へと導いていく。

【 構造的特徴(Structural Characteristics) 】

【 構造的特徴 】

(Structural Characteristics)

“純度の高い欲求”は、「内発的動機」のように主体の自律性を扱う概念ではなく、存在そのものが世界と応答的に生成される構造を示している。
それは、自己の内部で完結する意志ではなく、外界の変化意志と呼応する源的関係の現象である。

この関係は、「自分を自分たらしめる掟」が外界の律動と干渉する際に生じ、個がその“際(きわ)”を越えて応答しようとする能力が立ち上がる瞬間にのみ現れる。
ここで生じているのは、役割や義務としての責任ではなく、応答可能性としての責任(responsibility)である。

この構造は、生命が環境との相互作用を通じて形を変える自己組織化の原理と相似しているが、“純度の高い欲求”は単なる環境適応ではない。
それは、存在が世界の進化に参与する応答的プロセスであり、自己と世界の境界が往復運動を起こす中で、新しい形が生成されていく。

外的承認や社会的正義が“内発性”を装って入り込むと、この応答は自己の物語へと閉じ、構造は硬直する。
しかし、それを世界からのシグナルへの応答として聴くとき、自己は媒介として機能し、フィールド全体は新たな秩序へ移行する。

この転位を経験する過程そのものが、“純度の高い欲求”の核心であり、
理解とは所有や把握ではなく、応答が出来事として起こることを指している。

【 比喩(Metaphor) 】

【 比喩 】

(Metaphor)

・自分を自分たらしめる掟
・無添加の律動
・応答
・基調音(ファンダメンタル)

【 用例・文脈(Usage / Context) 】

【 用例・文脈 】

(Usage / Context)

  • 〔社会〕
    消費や承認を原動力とする社会では、欲求が外部刺激に依存しやすい。
    「成長」「競争」「効率」といった価値観のもとで、人は欠乏を埋める行為に駆り立てられる。
    しかし、その動機の多くは構造的に“添加”されたものであり、それらを自明視せずに問い直し、前提そのものを疑い始めたとき、一歩引いた場所から、静かな衝動が立ち上がることがある。
    この、無自覚だった前提が揺らぎ、自問自答が止まらなくなる過程そのものが、すでに「純度の高い欲求」が作動している状態である。
    社会の更新は、こうした“無添加の動機”が結論や正しさとして固定される前に、振る舞いとして共有されるところから始まる。

  • 〔組織〕
    企業やチームでは、理念やビジョンが形式化するほど、構成員の内側にある“掟の声”が聞こえにくくなる。
    「目標達成」や「再現性のある成功」が強調されるとき、組織は問いを失い、本来の呼吸を手放し、静かな硬直に陥る。
    一方で、成果以前に立ち止まり、「この前提は本当に引き受けるべきものか」という問いが現場で生きている状態では、一人ひとりの内的律が共鳴し合い、組織は上下関係ではなく“共鳴構造”として自己組織化し始める。経営の純度とは、答えを揃えることではなく、問い続ける振る舞いを保てるかどうかにある。

  • 〔家庭・個人〕
    家庭では、「愛するとは支えること」「努力は報われる」といった信念が、ときに本人の内側にある律動を覆い隠すことがある。
    「純度の高い欲求」は、そうした正しさを即座に否定するものではない。
    むしろ、それらを当然として引き受けてきた自分に対して、問いが生じ、前提が点検され続けている状態として現れる。
    このとき立ち上がる“これをせずにはいられない”という感覚は、結論や覚悟ではなく、
    世界との呼吸を取り戻そうとする応答的な振る舞いそのものである。
    それに従うとき、人は社会的役割や期待を離れ、世界と呼吸を合わせながら生きている感覚を、結果として取り戻す。

【 関連語(Related Terms) 】

【 関連語 】

(Related Terms)

Calling/意味的イノベーション/応答(Response)/自己組織化/ケオディックパス/内蔵秩序(Implicate Order)/Responsibility

【 引用または出典(References) 】

【 引用または出典 】

(References)

ヴィクトール・E・フランクル『それでも人生にイエスと言う』(新教出版社, 1986)
アブラハム・H・マズロー『存在の心理学(Toward a Psychology of Being)』(誠信書房, 1971)
デヴィッド・ボーム『全体性と内蔵秩序(Wholeness and the Implicate Order)』(青土社, 1990)
モーリス・メルロ=ポンティ『知覚の現象学』(みすず書房, 1967)
アーノルド・ミンデル『プロセスマインド』(春秋社, 1992)

【 備考(Note) 】

【 備考 】

(Note)

2025/12/18 改訂版(Responsibility追加)

2025/10/23 採用版(構造的精度+貢献構造の補足反映)

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